第3回「良質なインプット」の条件は?
英検Jr.®︎マガジン第354号
※このコラムは、2025年6月10日に配信された英検Jr.®︎マガジン(メルマガ)の内容です
公開日:2026.04.27
最終更新日:2026.05.13
目次
良質なインプット①:なんとなく意味が分かる
前回は、幼児期の言語習得には「良質で大量のインプット」が必要であることをお伝えしました。大量のインプットが必要なのは、幼児期の言語習得のメカニズム上、不可欠だからでしたね。
一方で、ただ大量のインプットがあればいいわけではありません。重要なのは「良質な」インプットが大量にあること。今回は、「良質なインプット」とはどのようなものなのかについて、ご説明します。
良質なインプットの非常に重要な条件の一つが、「なんとなく意味が分かるものであること」です。人間は生まれながらにして意図を共有するのが得意で、「言語は理解していないけど意図は分かる」という状態から、母語の習得はスタートします。そして、こういう意図・状況はこういうふうに表現するのだと、意図や状況と言語とのひも付けが行われていきます。
視覚情報と言語をセットで届けることが大切
英語を学ぶ上でも、意図や状況(視覚情報から得られやすい)と言語がセットになった環境で英語に触れることがとても大事です。言葉は分からなくても、何をしているところか、相手が何を言いたいのか、全体のメッセージは何なのか、理解できることはあります。
Yogurt [jóʊgɚːt] という単語(もしくは、その発音)を知らなくても、ヨーグルトを指さして「Do you want some yogurt?」と言っている人を見れば、なんとなく意味は分かりますよね。
親子でこのような会話ができるといいのですが、親が英語ができるとは限りませんから、子ども向けの英語の動画やアニメ、絵本の読み聞かせといったものを活用するとよいでしょう。

「音の掛け流し」との違い
前回、「視覚情報を伴わない英語の音声の掛け流しなどは、良質なインプットの条件を確実に満たしているとは言えない」とお伝えしましたが、その理由は、意図や状況と言語がセットになっていないからです。視覚的な情報がない中で音だけを聞いても、内容は理解できません。なお、CDのような音源の掛け流しは、英語の音、リズムや抑揚に慣れるといった面での効果が期待できますので、学習効果がないわけではありません。
良質なインプット②:今の英語力よりも少しだけレベルが高い
それから、子どもが英語力を上げるためには、「今の子どもの英語力よりも、ちょっとだけレベルが高いインプット」を選ぶことも大切です。既に知っている表現しか出てこないインプットを選んでも、新しい表現は学べません。知らない表現が少し含まれるが、そこを推測しながらであれば、全体として理解できる…というのが、レベルとしては最適です。
「少し知らない」が新しい表現を学ぶきっかけになる
さきほど、Yogurtという単語の例で、知らない単語があっても状況で理解できるという話をしましたが、新しい表現が学習されるのはこのような状況です。
インプットのレベルを子どもの現状よりやや高めにすることで、このような状況を意図的に作り出すのです。
子どもの反応を見ながら、合うレベルを確かめよう
可能であれば、レベルの幅が広い教材や絵本などのセットを用意し、どのレベルのものが合っているのか、子どもの反応を見ながら確かめていくといいでしょう。
良質なインプットの大前提:子どもが興味・関心のある内容である
次に、良質なインプットの大前提をお伝えしましょう。それは、「子どもが興味・関心のある内容であること」です。これは言語習得以外にも当てはまることですが、心のシャッターが閉じた状態では、学習が進みません。「見たい!聞きたい!分かりたい!」という湧き上がる内発的動機があるとき、このシャッターは開きます。
心のシャッターが開くとき、学習が動き出す
大好きなキャラクターがいる子ならそのキャラクターのアニメ、恐竜が好きな子なら恐竜など、子どもが夢中になれるものやジャンルであることは、何よりも大切です。嫌がるものやつまらないものを与え続けると、心のシャッターは閉じてしまいます。決して無理強いはせず、子どもの様子をよく見ながら、何を与えるかを判断していただきたいと思います。
正しいモデルが、正しい英語への近道
もう一つ、良質なインプットの条件として挙げられるのが、子どもにとって「正しいモデルになりうるものであること」です。言語習得における「モデル」は、自分のアウトプットを自己修正していく際にとても大切です。
幼い子どもは、よく日本語でも言い間違いをしますよね。例えば、「テレビ」を「てべり」と言ってしまうとしましょう。大量のインプットによって徐々に日本語の知識が溜まっていく中で、周囲の大人やお友達は「テレビ」と言っているのに自分は「てべり」と言っていると、「あれ、モデルと違うぞ!」と脳が反応するのです。いわゆる違和感ですね。「てべり」と口にする度に「!」と違和感が発動すると、脳の負担になります。モデル通りに「テレビ」と発音したほうが脳にとって楽なので、結果的に、自然とモデルに近づいていくのです。
第二言語(英語)の習得においても、合わせていくべきモデルがないと、そこにたどり着くことができません。そして、モデルが正しくないと、正しい英語は身に付きません。ネイティブスピーカーの英語に触れさせるのは、それが脳にとって合わせるべきモデルになるからなのです。良質なインプットの条件は他にもありますが、ひとまずここに挙げたものを理解しておけばよいと思います。
次回からは、アウトプットについてお話ししていきます。
尾島 司郎 先生 (おじま・しろう)
早稲田大学 理工学術院 英語教育センター 教授
英国Essex大学博士課程修了(Ph.D in Language and Linguistics)。 滋賀大学 教育学部 准教授、横浜国立大学 教育学部 教授などを経て、2023年より現職。 第二言語習得論、言語脳科学、早期英語教育などの研究を通して、日本人の英語習得メカニズムの解明とその教育応用を目指している。2026年1月に新刊『おうち英語ゼミ』(研究社)を出版。3児の父で、大人バレエに挑戦中。
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