第2回 幼児の言語習得メカニズムはどうなってる?
英検Jr.®︎マガジン第352号
※このコラムは、2025年5月10日に配信された英検Jr.®︎マガジン(メルマガ)の内容です
公開日:2026.04.27
最終更新日:2026.05.13
目次
言語習得には大量のインプットが不可欠!
前回は、幼い子どもの第二言語習得スピードはとてもゆっくりであること、そして、子どもの自然な言語習得のメカニズム上、「ゆっくりにならざるを得ない」ということに触れました。今回は、そのメカニズムについて解説したいと思います。
子どもの言語習得は「暗示的学習」で進む
母語にせよ第二言語にせよ、幼い子どもは無意識に行う「暗示的学習(implicit learning)」で言語を習得します。これは、音声を中心に言語を大量に浴びる中で、誰からも教わることなく学習者自身が、そこにあるルールやパターンといった規則性を見出していく学び方です。
暗示的学習には大量のインプットが不可欠で、たくさんの例文を聞かなければその中から規則性が浮かび上がってきません。子どもはたくさん聞いて規則性を抽出し、間違ったり修正したりしながらじわじわと正しい規則性を身に付けていくため、言語習得に時間がかかります。これが、「ゆっくりにならざるを得ない」理由です。
中学校から英語学習を始めたって遅くはない
暗示的学習に対して、最初にルール(文法)やパターン(フレーズ)を誰かから言葉で説明してもらう学習法は、「明示的学習(explicit learning)」と言われます。先に正しい「型」を与えられるため、理解度やスピードに個人差はあれども、特に学習初期は効率よく言語能力を上達させることができます。
前回述べたように、「幼い頃から英語に触れてきた学習者の方が、長期的に見ると(後発で英語を学び始めた学習者よりも)英語の習熟度が高くなるというデータがあるが、英語に触れる時間が数千時間を超えないと、早期に開始する優位性は生まれない」というのが、第二言語習得研究が示していることです。
日本で生活をする中で数千時間も英語に触れることは非常に難しく、日本にいながら英語を習得する場合は、特に初期のスピードだけ考えると、この明示的学習の方が現実的です。幼い頃から英語に触れる価値はあるのですが、中学校から始めたのでは遅い、不利だとあきらめる必要は決してないことも、お伝えしておきたいと思います。
アウトプットできるのはインプットしたものの一部だけ
さて、前回は、「幼児期の英語学習のカギになるのが、良質で大量のインプット」であることに少し触れました。「大量のインプット」が必要である理由は、先に説明した通り、幼児期の言語習得のメカニズム上、不可欠だからです。そして、インプットはアウトプットの能力を育てるためにも重要です。
インプットの円よりアウトプットの円は小さい
その理由はシンプルで、内にないものは外に出せないから。しかも、インプットしたもののうち、アウトプットできるのはほんの一部です。私たち大人も、「意味は分かるけど自在に使えない英単語」「読めるけど書けない漢字」というのがたくさんありますよね。円で表現すると、インプットの円よりもアウトプットの円の方が小さく(下の図を参照)、アウトプットの範囲を広げたければ、インプットの範囲も広げなければなりません。

幼児期はインプットだけの時期があっていい
英語はコミュニケーションツールですから、アウトプットできるようになることも大切です。それもあって英語学習の成果はアウトプットで評価しがちですが(我が子が英語を口にするのを聞くと、やはりうれしいものですよね)、アウトプットがないからといって英語学習が進んでいないかというと、決してそうではありません。
アウトプットの前段階として大量のインプットが不可欠であり、特に幼児期の英語学習においてはインプットだけの時期があっていいのです。「おうち英語」をがんばっているのに、うちの子は全然英語を口にしない…と思い悩む必要はありません。まだアウトプットのステージに至っていない、もしくは英語を話したい相手がいないだけかもしれません。
大切なのは「良質な」インプット
一方で、ただ大量のインプットがあればいいのかというと、それは違います。重要なのは、「良質な」インプットが大量にあることです。例えば、(映像を伴わない)英語音声の掛け流しなどは、英語の音やリズムに慣れるといった面で一定の効果はあると思いますが、私が考える「良質なインプット」の条件を確実に満たしているとは言えません。良質なインプットとはどのようなものなのかについては、次回、詳しくご紹介します。
尾島 司郎 先生 (おじま・しろう)
早稲田大学 理工学術院 英語教育センター 教授
英国Essex大学博士課程修了(Ph.D in Language and Linguistics)。 滋賀大学 教育学部 准教授、横浜国立大学 教育学部 教授などを経て、2023年より現職。 第二言語習得論、言語脳科学、早期英語教育などの研究を通して、日本人の英語習得メカニズムの解明とその教育応用を目指している。2026年1月に新刊『おうち英語ゼミ』(研究社)を出版。3児の父で、大人バレエに挑戦中。
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